歯周病の原因となる細菌の代表とされるジンジバリス菌による炎症や病気についてご説明します。
目次
ジンジバリス菌とはどんな細菌?
歯周病は細菌への感染によって起こる病気で、歯周病を引き起こす細菌の代表がジンジバリス菌です。ジンジバリス菌は他の細胞が作るたんぱく質やお口の中の食べかすをエサにして増殖していきます。
ジンジバリス菌は約30%の成人の口の中に生息しており、6種類のタイプがあります。その中でもパンチパーマ型と呼ばれるⅡ型がいると歯周病の発症リスクが44倍高くなるといわれています。
ジンジバリス菌はたんぱく質を分解するために酵素を作ります。その中でもジンジパインという酵素には高い病原性があり、歯周病を急速に進行させることがわかっています。
また、ジンジバリス菌は5型線毛という特殊な線毛を持ちます。細菌の表面に密生している3~8nm幅の線維状構造物のことを線毛といい、歯周病菌の中で線毛をもつのはジンジバリス菌とアクチノマイセテムコミタンス菌の2つです。これらの二つの細菌は線毛を使って歯の表面にバイオフィルムを形成します。
ジンジバリス菌の有害性
歯周病を引き起こすメカニズム
ジンジバリス菌が歯周病を引き起こす主なメカニズムは、菌が生成する毒素とその結果生じる免疫の過剰反応によります。ジンジバリス菌はリポ多糖と呼ばれる強力な炎症誘発物質を持っており、これが歯茎の細胞を刺激して炎症を引き起こします。さらに、菌はコラゲナーゼなどの酵素を分泌し、歯槽骨を破壊します。
口内の炎症と破壊
ジンジバリス菌が引き起こす炎症は、歯茎の赤み、腫れ、出血を伴います。進行すると、歯槽骨の破壊が進み、最終的には歯の喪失につながることがあります。このような状態になると、口腔内のバランスが崩れ、他の細菌感染のリスクも高まります。
他の全身疾患との関連
ジンジバリス菌の存在は、口腔内にとどまらず、全身の健康にも影響を与えることが研究で示されています。例えば、心血管疾患、糖尿病、早産・低体重児出産などのリスクが高まることが知られています。これらの疾患は、歯周病によって引き起こされる慢性的な炎症が全身に及ぼす影響と関連しています。
歯周病は細菌への感染で起こる
歯周病はその原因となる細菌に感染することで発症します。お口の中には300~400種類の細菌がおり、その中で歯周病の原因となる細菌は、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(A.A菌)、プロフィロモナス・ジンジバリス(P.G菌)、プレボテーラ・インテルメディア(P.I菌)、スピロヘータなどです。
これらの細菌は空気を嫌う嫌気性の細菌であるため、歯と歯茎の間の溝(歯肉溝)の中に入り込んで繁殖します。細菌が歯周ポケットに入り込んで繁殖すると、歯肉に炎症が起こります。すると歯肉は歯面から剥がれて歯周ポケットがどんどん深くなっていきます。同時に歯肉が腫れて、出血が起こったり、歯茎に膿がたまる症状が出てきて、細菌によって歯槽骨が破壊されていきます。
歯槽骨の破壊がすすむと、歯がグラグラしてきて、やがて歯を支えきれなくなって抜けてしまいます。歯周病が怖い病気といわれるのは、最終的に歯が抜けてしまうからです。
歯周病菌は血流に乗って全身を巡る
歯周病はお口の中の病気と考えられてきましたが、近年、歯周病菌が歯ぐきから血管に入り、全身を巡ることで動脈硬化などの様々な病気を引き起こすことがわかってきました。
ジンジバリス菌は細胞から細胞へと移動しやすく、歯茎の毛細血管へ入り込んでしまいます。血管に入ったジンジバリス菌は、血液と共に全身に運ばれます。
歯周病菌がお口の中から移動して全身に悪さをするなんて、怖いことですよね。
ジンジバリス菌と動脈硬化の関連もあるとされており、心筋梗塞の発作を起こした患者さんの血液を調べると、ジンジバリス菌が見つかったという報告もあります。
特に血管壁に付着して塊となっている血液などの中に、ジンジバリス菌が多く発見されています。ジンジバリス菌は血管壁に付着しやすく、そこで炎症を起こします。そのためジンジバリス菌が血中に入ると動脈硬化が進行しやすいと考えられています。
ジンジバリス菌は認知症のリスクにも関係している
歯周病菌は認知症との関連も指摘されています。
認知症は脳にアミロイドβという物質が過剰にたまることから起こるといわれています。最近ではこのアミロイドβがたまる要因に、ジンジバリス菌が関与しているといわれています。
亡くなった方の脳の中にジンジバリス菌がみつかったという研究データがあります。更に、最近の研究では認知症の患者さんの髄液からもジンジバリス菌が検出されて話題になりました。
また、アメリカの製薬ベンチャー会社はアルツハイマー病治療薬の開発と臨床研究を行っており、マウスをジンジバリス菌を感染させると脳にアミロイドβがたまり、ジンジパインの阻害薬を与えるとアミロイドβが減ったという結果が出ています。
認知症だけではなく、細菌では肝臓がんのリスクが高いといわれる非アルコール性肝炎と歯周病の関連性も注目されています。ジンジバリス菌は身体に慢性炎症を起こしてダメージを与えるため、歯周病と様々な病気との関連が研究されています。
ジンジバリス菌から歯茎や身体をまもるためには?
近年、歯周病菌と全身の病気に関する研究が進み、歯周病と全身の健康に関係があることがわかりました。歯周病は糖尿病、心臓病、低体重児出産、骨粗しょう症とも関連があるといわれています。では、ジンジバリス菌から身体を守るにはどうすれば良いのでしょうか。
セルフケアをできるだけ丁寧に行う
ジンジバリス菌はまず口内で繁殖するため、お口を清潔に保つ必要があります。そのためには、毎日の歯磨きなどのケアがとても重要になります。
年に数回の歯科定期検診
毎日歯磨きを丁寧に行っても、お口の中の細菌を全て除去することは出来ません。歯間や歯と歯茎の間(歯周ポケット)の歯垢は自分では取りにくく、歯石が出来てしまうともう歯ブラシでは取れません。
そのため、年に数回の歯科検診を受けていただき、歯科衛生士によるクリーニングを受けていただくことをおすすめします。軽い歯肉炎でしたらクリーニングを定期的に受けて、歯磨きをていねいに行うことで改善します。
喫煙と歯周病にも関連があります
毎日15本以上タバコをすう人は、歯磨きを1日に2~3回欠かさず行っていても、歯周病が改善しないというアンケート結果があります。歯周病治療や予防のためには喫煙は危険因子となります。
まとめ
歯周病菌の代表的なものとしてジンジバリス菌があります。歯周病菌は歯周ポケットの中で増殖して、歯茎に炎症を起こし、出血や膿といった症状を起こします。そして症状が進行すると歯槽骨が破壊されていき、歯を失うことに繋がります。
ジンジバリス菌の影響はお口の中だけではありません。ジンジバリス菌は歯茎から血管に入り込んで全身に運ばれていき、様々な病気と関連しています。ジンジバリス菌によって起こる歯周病だけでなく全身の様々な病気を予防するためには、毎日のケアと歯科医院での定期健診が効果的です。