インプラント

インプラントすると老後悲惨という理由は?

インプラントは老後が悲惨という不穏な噂はどこから湧いてくるのか、結論から言えば、一部の現実と誤解が混ざり合った都市伝説のようなものです。なぜそのような情報が出るのか、理由や対策について詳しくご紹介いたします。

インプラントが老後悲惨と言われる理由

局所麻酔で行われ、手術時間も1本なら30分程度の所要時間となり、重度の全身疾患がなければ高齢でも十分に受けられる安全性はある治療です。ただし、インプラントをすると老後悲惨と言われることについて、このような理由が考えられます。

身体的な負担が大きい

インプラント治療は、顎骨に人工歯根(フィクスチャー)を埋入して骨と結合させてから、連結部分(アバットメント)を入れ、上部構造と呼ばれる人工歯を被せます。外科手術であるため、麻酔後にメスで歯肉を切開したり、ドリルで穴を開け人工歯根を埋入し縫合することに耐えうる体力が必要となります。老後になると体力の低下を懸念されることからでしょう。

要介護や認知症になりメインテナンスへ通院できない

インプラントは歯を入れたらおしまいというわけではなく、その後のセルフケアやメンテナンスが重要です。要介護になると、インプラントのメンテナンスのために通院ができません。認知症であると、セルフケアの歯磨きですらおぼつかなくなり、インプラント周囲炎を起こし、脱落してしまう可能性が高いです。

インプラントが骨に安定しにくい

インプラント治療では顎骨の強度が重要で、量、幅、厚みが不十分であれば、骨造成手術が必要になります。老後になるとどうしても若い時より骨密度が低下します。それにより、インプラントの安定性に影響を与え、不安定になるリスクが高まるでしょう。インプラントが不安定なまま連結部分や上部構造を付けてしまうと、噛み合わせる力も弱まってしまい、食事に支障をきたします。

治療費用が高い

価値観は人それぞれで、高額な治療費がもったいないと感じる方は一定数おられます。インプラントの相場は、1本あたり30〜50万円程度が一般的で、場合によっては複数本必要になることもあります。老後に近い年齢で大きな出費をして、入れ歯で良かったのでは?と周囲に言われると、治療を受けた患者さんはもったいないことをしたのかとマイナスな気持ちになります。

細菌感染のリスクが上がる

インプラント治療である外科手術を行うと、どうしてもインプラント周囲炎のリスクがあります。インプラント周囲炎は簡単に言うと、インプラントの周りで起きる歯周病のようなものです。唾液の分泌量が加齢とともに減ることから、高齢になれば、どうしても歯周病にかかる確率が非常に高くなります。

参照先:歯周病とは

インプラントの事実と失敗談

ネットやSNSで情報が飛び交う情報は、事実と失敗談の掛け合わせにより老後悲惨というキーワードに繋がりやすいと思います。

インプラントが長く使えるか

若い時に入れても将来外れるという認識があるインプラントですが、背景にはインプラントは一生モノではないという事実も関係しています。実際、インプラントの寿命は10~20年程度がひとつの目安ではあり、例えば40代で入れた方は、60~70代では再治療が必要になる可能性があるわけです。この事実がやっぱり年取ってから困るという感想につながっているようです。とはいえ、日常的な歯磨きと、定期的なメンテナンスを受診していると、インプラントを長持ちさせる確率が上がります。

ネット上の失敗談

人は失敗談に目が留まりやすく、引き寄せられる性質があります。たとえば「インプラントやるんじゃなかった」「高かったのに抜けた!老後どうしよう」「後悔…インプラント体験談」という記事や動画タイトルを見ると、ついクリックしたくなる人も多いはずです。コンテンツのタイトルはインパクトが強いため、SNSで拡散されたり検索結果に残りやすく、老後悲惨のイメージに拍車をかけていると言えるでしょう。

高齢者に起こりやすいインプラントトラブル

インプラントは第二の永久歯とも呼ばれますが、あくまでも人工歯です。定期的なメンテナンスを欠かさなければ長持ちしますが、高齢になってから想定外の落とし穴も存在します。高齢者に起こりやすいトラブル例を解説していきます。すべて実際に起こりうる話ですので、自分ならどう備えようと考えながら読み進めてください。

① インプラント周囲炎

天然歯に歯周病があるように、インプラントにも歯周病のような状態が起こります。先述しましたがそれがインプラント周囲炎です。

  • 歯茎の腫れや出血がある
  • インプラントがグラつく
  • 口臭が強くなる
  • 大きな痛みが出る

サイレントキラーと呼ばれる歯周病と同様に、自覚症状が出た時には進行していることが多いという点があります。天然歯と違い、神経がないため痛みを感じにくく、高齢になると免疫力や唾液の分泌も低下し、口内環境が悪化しがちです。体力が落ちて歯科への通院が難しくなれば、ケア不足から炎症が起き、インプラント脱落ということが起こり得ます。

② 通院困難によるメンテナンスの中断

インプラントは入れたら終わりではなく、入れてからがスタートです。半年に1回以上の定期メンテナンスをおすすめされますが、これが高齢になるとハードルになります。

  • 足腰が悪くなって歯科医院に通えない
  • 介護が必要となり、通院の手配が困難である
  • 自分では歯磨きが十分にできなくなる

こうした理由から通院が中断され、インプラント周囲のケアが不十分になり、状態悪化につながるのです。

③ 体調変化により再治療が困難になる

年を重ねると、このような全身疾患や投薬治療を抱える方が増加し、インプラントの再治療や抜去が難しくなる可能性があります。もう一度入れ直したいと思っても、体の状態がそれを許してくれないケースもあります。

骨粗しょう症

ビスホスホネート製剤を服用すると、骨の代謝が抑制されます。カルシウムの流出予防にはなりますが、細菌感染しやすい状態になります。服用している状態を隠したままインプラント治療を行われると、顎骨壊死など重症化するので、必ずお薬の服用は歯科医師へ連絡しましょう。

糖尿病

高血糖ではなく、血糖コントロールができている状態であればインプラント治療ができる可能性が高いです。ただし、糖尿病の患者さんは免疫力が落ち血流が悪くなっている状態です。糖尿病ではない患者さんと比べるとどうしてもインプラント手術により、細菌感染を起こす確率が上がってしまいます。

抗凝固薬を服用

脳梗塞や心筋梗塞をされた方は、血液の流れを良くするため、血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を服用している方がおられます。半年以内に発症した場合を除いてインプラント治療はおおむねできることがありますが、出血しやすい状態であることに変わりはありません。術前の精密検査、術中や術後の止血の徹底、インプラント担当医と主治医の綿密な連携が必要です。

④ 認知機能の低下

高齢期には、認知症の発症や物忘れが進む方もいます。日常生活において忘れやすくなり、歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロスでのセルフケアが行き届かなくなります。ケアに気を配ろうと思っていても、セルフケアを行うことが難しくなると、結果的にメンテナンスの質が落ち、インプラントの寿命も縮まります。

⑤ 義歯との併用がうまくいかないケース

すべての歯をインプラントにする人は少なく、多くはインプラントとブリッジ、インプラントと部分入れ歯など組み合わせます。高齢になって顎の骨が痩せて噛み合わせが変化すると、義歯との調和が崩れ、噛みにくさや痛み、違和感という不快感が出ることもあります。

インプラントした人の老後のメリットとは

ここまでインプラントをすると老後悲惨と言われがちな理由についてご紹介しましたが、必ずこれらが起きるというわけではありません。反対にインプラントを行った人の老後のメリットについてご案内します。

① 咬合力を保てる

食事の際にきちんと噛めないと胃腸などの消化器官へ負担がかかります。そのため、噛みにくければ、どうしても噛みやすい柔らかい食事メニューを考えがちです。天然歯と同等の咬合力がインプラントにはあることにより、細かくすりつぶすことが可能です。

② 周囲の天然歯にダメージを与えない

インプラント以外の義歯治療として、入れ歯やブリッジがありますが、いずれも隣接歯に対して負担を強いるものです。入れ歯は金属のバネが隣接市にかかり、ブリッジは連結した人工歯を被せるために隣接歯を支台歯として削ります。その点、インプラントは人工歯根が支えるため、隣接歯を健康なまま保つことができます。

③ 食事や会話を楽しめる

入れ歯治療においては、外れるかもしれないという不安や、噛めるか心配ということがあります。その点、インプラントは、インプラント周囲炎などにかからない限り動揺や脱落の心配がありません。食事や会話で口を大きく開けても、ストレスにはなりません。

④ 見た目を若々しく保てる

お顔の印象で目の次に印象に残りやすい部分は口元です。入れ歯にすると噛んだという伝達が脳に届かないため、顎の骨が痩せてしまいます。顎の骨が痩せると顔貌に影響が出てしまい、老けた印象を持たれてしまいます。インプラントは噛む刺激が脳へ届き、顎の骨が痩せることはありませんし、綺麗な歯の印象になります。

⑤ 認知症リスクを軽減できる

認知症のリスクを少しでも下げるためには、しっかりと噛むことが大切です。噛みしめた刺激が脳へ伝達すると、刺激となり活性化に繋がります。

⑥ 誤嚥性肺炎のリスクを軽減できる

入れ歯の洗浄を怠り不衛生なまま装着していると、細菌が繁殖している状態です。不衛生な入れ歯よりも、インプラントは着脱、清掃の手間がなく衛生状態は良いと言えます。誤って唾液が気道に入ったことにより起きる誤嚥性肺炎のリスクが高いのは入れ歯でしょう。

後悔しないためには?

インプラントで老後に後悔しないためには、この3点に着目しておくと良いでしょう。

  • 信頼して任せることができる歯科医院を選ぶ
  • 持病がある場合はかかりつけ医に相談する
  • メンテナンスをしっかり行う

信頼できる歯科医院を選ぶ

インプラント治療を安全に正確に行うためには、術前の診査や診断が非常に重要になってきます。院内に歯科用CTの治療設備が整っているか、インプラントの治療実績があるかを事前に確認しておきましょう。治療内容や費用についてきちんと明確な説明があるかもとても大切です。患者さんのお悩みや相談をきちんと聞く姿勢があり、疑問や不安点に対して返答があるかどうかなどを見つつ、信頼できる歯科医院かどうかを選びましょう。

持病がある場合はかかりつけ医に相談する

持病があり、服用中の薬がある場合には、必ずかかりつけ医に相談しましょう。先述した通り、インプラント治療のリスクを高める疾患もあることから、場合によってはインプラント手術を選択できないケースもあります。大丈夫と自己判断すると重篤なトラブルにつながることもあります。必ずご自身の身体の状況については、歯科医師にインプラントを検討する際に相談しましょう。

メンテナンスをしっかり行う

インプラントの予後をより良く高めるためには、歯科医院での定期検診と適切なセルフケアが必要です。定期的なメンテナンスに通いやすい立地である医院かどうか、ご自身でのケアが難しくなった際にご家族などサポート体制が整っているかなども考えましょう。インプラントをしたものの悲しい結果になってしまわないように術後のケアが鍵となります。

まとめ


インプラントは老後が悲惨と言われることがありますが、インプラントにはメリットが多くあることも事実です。欠損した歯を補う治療としてブリッジや入れ歯もありますが、周囲の健康な歯にダメージを与えない治療法はインプラントのみです。周囲の健康な歯を傷つけたくないと考える方は、インプラントを選択し、メンテナンスで長く保つようにしましょう。

この記事の監修者
医療法人真摯会 クローバー歯科豊中駅前アネックス・矯正歯科
院長 中西 洋介

2015年 昭和大学 歯学部卒業。日本口腔外科学会。日本有病者歯科医療学会。日本口腔内科学会。

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クローバー歯科豊中駅前アネックス